学校の「働き方改革」に思うこと

最近、学校教育界隈で「働き方改革」が必要だという動きが活発になっています。直接のきっかけは、中央教育審議会中教審)が8月29日に発表した「緊急提言」にあります。同じタイミングで報道された、OECDの教員の労働時間調査結果も影響しているでしょう。この「働き方改革」の動きは、学校の労働環境と、学校教育の「病理」を変えるための、大げさにいえば「戦後最大のチャンス」だと私は考えています。

 

筆者は、教員歴20数年の、ある私立学校教員です。公立学校にも10年あまり勤めていました。何年か前から、自分の「働き方」に疑問を持つようになり、徐々に「ひとり働き方改革」を進めてきました。今では特別なことがないかぎり、ほぼ定時で退勤するようになっています。休日出勤も基本的にありません。しかし、かつての私は長時間働く自分を誇りに思っていました。若い頃には、早くても21時、遅ければ23時頃まで学校にいるような「働き方」をしていました。今では、そのときとは正反対の考え方をしているといってもいいかもしれません。

 

定時に帰るような教員は、「仕事をしない」とか、「自分本位で周りに迷惑をかけている」とか、「生徒のことを考えていない」といった、負のイメージを持たれているかもしれません。かつては私もそう考えていました。しかし、それは誤りでした。むしろ、定時退勤があたりまえという「働き方」をするようになって、仕事の質は上がったと思っています。やりがい・充実感は若い頃と変わらずあります。授業は新しい理論や知見を取り入れながら、毎年アップデートしています。勤務校で実施している授業アンケートの数値も良好です。クラス担任、校務分掌でも、自分に与えられた仕事はできているはずです。人間関係はそれほど気にするタイプではありませんが、少なくとも表面的には良好なのではないでしょうか。気の合う同僚もいます。内心「気に入らない」と思っている人はいると思いますが、それは以前でも同じだったでしょう。

 

定時に帰るようになった当初は、自分の価値観は多くの教員とは違っているのだから、嫌われようと、煙たがられようと、自分の価値観を信じて行動しよう、とだけ考えていました。誰かの考えで自分の行動を変えられたくはないし、自分の考えを誰かに押しつけることもしたくないからです。個人的なつきあいのある同僚に自分の考えを話すことはありますが、それは居酒屋談義の域を出るものではありません。要は、自分さえよければいい、他人の人生にまで踏み込みたくない、と考えていました。

 

しかし、今年になって、その考え方は変化をしています。最も大きな理由は、先ほど述べた「働き方改革」推進が活発化していることです。「ひとり働き方改革」を推進することは、はじめは逆風の中を歩くような行為だと考えていました。しかし、同じ価値観を共有できる同僚は想像していたよりも多く、とくに若い世代の人たちに共感的に受け止められる経験を何度もしました。最近、この課題について職場で研修会が開催され、その講師の方の主張が、私が考えてきたこととほとんど同じだったことにも、「逆風」がいつのまにか「追い風」になったように感じました。


しかし、いっぽうでは、6〜7割が「過労死ライン」にあるとも言われる学校の勤務環境がそう簡単に解消できないこと、そして、今の「追い風」が一過性のブームに終わってしまうことも危惧しています。中教審の「緊急提言」は「『勤務時間』を意識した働き方」を求めていますが、「勤務時間を守って働く」とまでは言い切っていません。部活動の「休養日を含めた適切な活動時間の設定」によって削減できる時間は、せいぜい月に10〜20時間程度に過ぎません。「勤務時間の管理」は持ち帰り仕事を増加させるかもしれませんし、「統合型校務支援システムの導入」や「専門スタッフの配置促進」が、かえって仕事を増やす恐れもあります。管理職を含めた行政の取り組みに期待するだけでは、根本的な「改革」は見込めないと私は考えています。

 

それでもやはり今は、最大のチャンスだと思います。そのためには、学校で働く教員のひとりひとりが「働き方改革」に取り組み、その輪を広げていくことが不可欠なのだと思っています。名もない私立学校の一教員に過ぎない私が、自分だけで独善的に進めてきた「ひとり働き方改革」が、もしかすると同じような問題意識を抱える日本中の同僚たちのヒントになるのではないか、そんな考えでブログを書いてみようと思い立ちました。書くことによって、私自身の考え方もまた整理され、次の段階に進むことができるような気もしています。「身バレ」をしないように、ある程度のフェイクは入れていきますが、対面ではなかなか言えない本音や恥ずかしいことも、率直に書いていきたいと思っています。

 

次回は「長時間労働の弊害」について書いてみたいと思っています。